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東京地方裁判所 平成9年(ワ)21071号 判決

原告 有限会社A

右代表者代表取締役 B

原告 B

右両名訴訟代理人弁護士 武井共夫

同 野呂芳子

同 金谷達成

被告 東京海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役 樋口公啓

右訴訟代理人弁護士 柏木秀夫

同 松吉威夫

同 鈴木邦人

被告 富士火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 尾田恭朗

右訴訟代理人弁護士 金子喜久男

同 内藤貴昭

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告東京海上火災保険株式会社は、原告有限会社Aに対し、四三〇二万九一二〇円及びこれに対する平成九年一〇月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告富士火災海上保険株式会社は、原告Bに対し、一億二四八八万四六五〇円及びこれに対する平成九年一〇月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、被告らの負担とする。

四  仮執行宣言

第二事案の概要

本件は、被告東京海上火災保険株式会社との間に店舗総合保険契約を締結していた原告有限会社Aが、同被告に対し、被告富士火災海上保険株式会社と訴外株式会社旺臣建設との間の普通火災保険契約及び同被告と訴外鯉沼明男との間の店舗総合保険契約についてそれぞれ質権設定承認裏書を受けていた原告有限会社Aの代表者である原告Bが、同被告に対し、いずれも火災を原因として保険金の支払を求め、被告らは、右火災は、原告Bの放火によることを理由として保険約款に基づく免責等を主張している事案である。

一  争いのない事実と証拠により認定した事実

1  原告有限会社A(以下「原告会社」という。)は、平成九年一月二四日、被告東京海上火災保険株式会社(以下「被告東京海上」という。)との間で、次の内容の店舗総合保険契約を締結した(争いない。)。

(一) 証券番号 五二一一四二九九一七

(二) 保険の目的の所在地

東京都北区赤羽一丁目二一番一号

(三) 保険の目的

(1)  商品・原材料・製品等

(2)  什器・設備・機械等

(これらを収容する建物は、コンクリート造陸屋根四階建事務所)

(四) 保険金額 合計四四〇〇万円

(1)  商品・原材料・製品等 四三〇〇万円

(2)  什器・設備・機械等 一〇〇万円

(五) 保険期間 一年間

2  訴外株式会社旺臣建設(以下「訴外旺臣建設」という。)は、平成八年五月一〇日、被告富士火災海上保険株式会社(以下「被告富士火災」という。)との間で、次の内容の普通火災保険契約(以下「本件普通火災保険」という。)を締結した(争いない。)。

(一) 証券番号 二〇四―七三二五一三―五

(二) 保険の目的の所在地

東京都北区赤羽一丁目二一番一号

(三) 保険の目的

鉄骨造モルタル塗込陸屋根四階建店舗事務所

(四) 保険金額 一億円

3  訴外旺臣建設の代表取締役である訴外鯉沼明男は、平成八年七月二九日、被告富士火災との間で、次の内容の店舗総合保険契約(以下「本件店舗総合保険」という。)を締結した(争いない。)。

(一) 証券番号 二〇四七三二五一四三

(二) 保険の目的の所在地

東京都北区赤羽一丁目二一番一号旺臣ビル

(三) 保険の目的

鉄骨造モルタル塗込陸屋根四階建店舗事務所内収容の什器備品一式

(四) 保険金額 三〇〇〇万円

4  原告B(以下「原告B」という。)は、後記7の訴外旺臣建設に対する債権を担保するため、被告富士火災から、平成八年五月三一日、本件普通火災保険に対する質権設定承認裏書を受け、同年八月二〇日、本件店舗総合保険に対する質権設定承認裏書を受けた(争いない。)。

5  東京都北区赤羽一丁目二一番一号(登記簿上の表示は、東京都北区赤羽一丁目二一番地四)所在の鉄骨造モルタル塗込陸屋根四階建店舗事務所(登記簿上の表示は、軽量鉄骨造陸屋根四階建倉庫食堂宿舎、以下「本件建物」という。)は、訴外旺臣建設の所有であり、その使用状況は、一階に居酒屋「京國」が入居し、二階は株式会社旺臣(以下「訴外旺臣」という。)の事務所、三階は原告会社と訴外池正男(以下「訴外池」という。)の事務所として使用されていた(争いない。)。

6  平成九年二月一九日午前一時三二分ころ、本件建物において、放火による火災が発生し、原告会社事務所内に保管していた商品、什器、備品などが焼失し、また、本件建物は全損状態となり、本件建物内の什器備品も焼失した(争いない。)。

7  原告Bは、平成九年二月一九日当時、次のとおり、訴外旺臣及び訴外旺臣建設並びにその連帯保証人である訴外鯉沼に対し、貸金等合計一億二三五二万九四四八円の債権を有していた(甲七、八、三一、三二、証人鯉沼、原告B)。

(一) 平成八年一〇月二六日に締結した準消費貸借契約に基づく(主債務者訴外旺臣、連帯保証人訴外旺臣建設及び訴外鯉沼)

元金 一億一三〇二万八〇〇〇円

利息及び遅延損害金

五二九万五二八四円(約定日である平成八年一〇月二六日から平成九年二月一九日までの一一四日について年一割五分で日割計算したもの)

(二) 平成八年一一月二〇日に締結した消費貸借契約に基づく(主債務者訴外旺臣建設、連帯保証人訴外旺臣及び訴外鯉沼)

元金 五〇〇万円

利息及び遅延損害金

二〇万六一六四円(約定日である平成八年一一月二〇日から平成九年二月一九日までの一一四日について年一割五分で日割計算したもの)

二  争点

1  店舗総合保険普通約款第一章二条及び火災保険普通保険約款第一章二条による免責の有無

(被告らの主張)

本件火災は、次に述べる事情から、被告東京海上にとって保険契約者及び被保険者であり、被告富士火災にとって保険金を受け取るべき者である原告会社の代表者である原告Bの放火によって発生したものとみるべきであるから、保険約款に基づき被告らの各保険金支払義務は免責される。

(一) 本件火災は、何者かが本件建物の二階部分及び三階部分に大量の灯油を撒き、三階部分の原告会社が占有する事務所の書籍ロッカー前の床に紙を置き、これに火をつけて放火したことにより発生したものである。

(二) 本件建物には、外部からの不審な侵入をうかがわせるドア等の損傷はなく、本件建物正面に設置されているアルミ枠のドア(以下「第一ドア」という。)の横に設置されている小さなドア(以下「第二ドア」という。)から侵入したものと考えられる。第二ドアは、本件火災当日、訴外鯉沼により午後八時ころ施錠されたが、赤羽消防署の消防士が到着したときは、四五度開いた状態で放置されており、右ドアの鍵を所持していたのは、原告B、訴外鯉沼及び本件建物の三階を事務所として使用している訴外池並びに訴外李の四名であり、訴外鯉沼、同池及び同李には、放火を行う利益は存在しない。

(三) 本件建物二階出入口のドアは、本件火災前に施錠されていた(右ドアの鍵は、訴外池及び同李は所持していない。)が、右出入口のドアの隣に設置されていた窓には鍵がかかっておらず、そこから容易に二階事務所に侵入できたのに、右出入口ドアにはノブの下に切り刻んだ穴が開けられ、そこから内側のドアノブを回してドアを開けたかのような痕跡が残されていた。しかも、右穴の切断面は外側に向いており、部屋の内側から開けられたものであって、内部の者が外部の第三者の犯行に見せかける偽装工作を行ったものであることは明らかであった。

(四) 本件建物三階の各事務所のドアのシリンダー錠は、本件火災前に施錠されていたところ、本件火災後開けられた状態で焼け残っていた。本件建物三階の原告会社事務所の鍵を所有しているのは、原告Bである。

(五) 原告Bは、本件火災発生前の三年間は、事業の失敗と個人代理店としての保険販売による収入の減少によりその経済的状況は厳しかった。

(六) 原告Bは、訴外鯉沼及びその関連会社に対し、平成九年二月一九日の時点で一億二三五二万九四四八円の債権を有しているとされているが、本件建物及びその敷地には、債権額合計五億円の抵当権及び極度額合計一億二〇〇〇万円の根抵当権が設定されており、さらに、競売開始による差押登記、税金の滞納による差押登記がされており、本件建物及びその敷地の評価額(最低売却価額)は、八一七五万円にすぎなかったから、本件建物及びその敷地から前記債権を回収できる見込みはなかった。

(七) 訴外旺臣建設は、平成八年五月一〇日、被告富士火災の間で、本件普通火災保険契約を締結し、同月三一日、原告Bは、同被告から本件火災保険に対する質権設定承認裏書を受け、さらに、訴外鯉沼は、同年七月二九日、同被告との間で、本件店舗総合保険契約を締結し、同年八月二〇日、原告Bは、同被告から本件店舗総合保険に対する質権設定承認裏書を受けた。

右各保険契約の保険金額は、合計一億三〇〇〇万円となり、原告Bの訴外鯉沼に対する債権の全額回収を可能にするものであり、しかも、訴外旺臣建設及び同鯉沼は、原告Bの勧めによって、右各保険契約を締結し、保険料の大半を、原告Bが負担していた。

そして、右各保険契約締結から一年もたたない平成九年二月一九日に、本件火災が発生した。

(八) 原告会社は、本件火災によってその所有する化粧品が焼失したとするが、原告会社の定款には、化粧品販売が会社の目的として記載されておらず、原告会社において、化粧品の海外及び国内への販売計画があったかどうかも疑わしく、また、これらの販売計画が具体化しないうちに大量の商品を購入し、在庫として抱えることになっているのも不自然である。

さらに、原告会社における罹災商品の購入代金の出所に関しても裏付けがなく、実際右代金が支払われたかどうかについても信憑性に乏しい上に、右化粧品を販売したとする訴外株式会社レーシモントウキョウ(以下「訴外レーシモントウキョウ」という。)においては、化粧品販売の実績がない原告会社に対し、年間売上げの約七〇パーセントを、定価の七〇パーセントという異常な高値で販売し、右売上げ及び購入代金の受領に関しても一切記帳していないという不自然な状態であって、右取引の存在自体疑問がある。

(九) 原告Bにおいては、昭和五六年五月二四日夜間に、以前住んでいた自宅が火災にあったという経験を有している。

(原告らの主張)

原告Bは、本件火災に関して、警察から取調べのための呼出しすら受けておらず、本件火災が、原告Bの放火によって発生したものであるとの証拠はない。

(一) 第二ドア及び本件建物三階原告事務所のドアの鍵は、本件建物の入居者が退去する都度に変えられたこともないから、右鍵を所持する者が被告ら主張の三名及び原告Bに限られる根拠はない。

(二) 第二ドアは、鯉沼が本件建物から退去する午後八時ころまで施錠されていなかったから、放火犯人がそれまでに本件建物に侵入しどこかに潜んでいたことや訴外鯉沼が施錠を失念した可能性も否定できない。

(三) 本件建物二階出入口のドアのノブの下に開けられた穴は、外側から内側に向けて開けられたものであって、右穴の存在をもって偽装工作とする被告らの主張は前提を誤っている。また、右出入口ドアの隣の窓は、内側から施錠されていたはずであるし、仮に施錠されていなくても、夜間本件建物に侵入した者が窓の存在自体に気づかないでドアの損壊を行ったことは十分考えられることである。

(四) 原告Bが保険金取得を目的として放火をするとするならば、同原告が放火犯人であると疑われる可能性の高い、保険契約締結後一箇月もたたないうちに右契約の目的物に放火することは避けていたであろうし、より確実に損害を多くするために、本件建物の二階、三階のいずれにも着火してすべての動産類を確実に焼損させ、また、消防活動を困難にさせるために本件建物から退出する際にドアの鍵を閉める行動に出たと考えられるが、二階事務所に着火された形跡はなく、また、第二ドアも火災発見時には開放された状態であった。

(五) 原告Bの保険販売に関しては収入が減少していたが、これは近時の経済環境に起因する保険業界一般に見られる現象であって、原告Bに特有の事柄ではないし、同原告の生活に何らかの支障が生じていたことはない。

(六) 原告Bが本件建物に入居する際、偶然本件建物に保険がかけられていないことを知り、長年保険業に携わってきた者としての一般的なアドバイスとして、訴外鯉沼に対し、保険に加入しておいた方がいいと勧めたところ、訴外鯉沼は、自発的な判断の下本件各保険契約を締結した。そして、訴外鯉沼が経済的に厳しい状況にあったため、原告Bが一時的に保険料を立て替えたのであって、同原告と訴外鯉沼との間で同原告が保険料を負担するとの合意をしたことはない。

(七) 原告会社設立時には、化粧品販売の計画はなかったから、原告会社の定款に化粧品の販売が会社の目的として記載されていないのは当然である。原告会社が化粧品を購入する段階で、台湾への販売計画があったし、これが実現しないことになると、国内への販売計画に切り替え、これが具体化しないうちに本件火災が発生したのであり、原告会社の化粧品の購入の経過に不自然なところはない。

また、原告Bは、訴外磯野治(以下「訴外磯野」という。)に対し、化粧品の購入代金を平成八年一二月一九日に二〇〇万円、同月二七日に一〇〇万円、平成九年一月二八日に五〇万円、同年二月二六日に五〇万円を支払っており、同原告と訴外磯野との化粧品に関する金銭の授受に関する日時と金額の供述は完全に一致しており、両者の供述に信憑性に欠ける点はない。

さらに、訴外レーシモントウキョウにおいて、商売として化粧品販売をしている以上、大口の取引先を探すのは当然のことであり、原告Bとの取引額が訴外レーシモントウキョウの年間売上高の大きな割合を占めたとしても不自然ではないし、訴外レーシモントウキョウの仕切値が通常より高額であったのは、商品返品の危険は訴外レーシモントウキョウが負担するとの商品交換条件付き取引であったからである。

2  公序良俗違反(判断の必要がなかった争点)

(被告らの主張)

本件各保険契約は、本件火災を発生させ、保険金を取得しようという意図で締結されたものであるから、公序良俗に反し無効である。

3  虚偽申告等(判断の必要がなかった争点)

(被告らの主張)

店舗総合保険普通約款第三章二六条及び火災保険普通保険約款第三章一七条には、保険契約者及び被保険者は、保険会社に提出する損害見積書その他の書類に知っている事実を表示せず、不実の表示をしたときは、保険金を支払わない旨が定められているところ、原告会社及び訴外鯉沼提出の動産罹災申告書の記載内容及び本件建物の評価は信用性に乏しく、不実の表示をしたものであるから、被告らは、保険金支払義務を負わない。

(原告らの主張)

本件建物の評価は、原告らと被告らにおいて損害金額の評価についての考え方が異なっているというだけであるし、訴外鯉沼所有の動産についても訴外鯉沼が経営する会社の分も含めることは被告富士火災において認めていたことであり、その額も過大ではなく、原告会社の化粧品についても過大の点はないから、原告らの損害の主張が不実の表示をしたことはない。

4  本件普通火災保険契約に対する質権の無効(判断の必要がなかった争点)

(被告富士火災の主張)

原告Bは、平成八年五月三一日、被告富士火災から本件普通火災保険に対する質権設定承認裏書を受けているが、その時点において、原告Bは、訴外旺臣建設に対し、全く債権を有していなかったのであり(訴外旺臣建設が原告Bに対する新たな債務者とされたのは、同年一〇月二六日のことである。)、したがって、質権は被担保債権の不存在により無効である。

(原告Bの主張)

質権は、将来発生すべき債権のためにもあらかじめ設定することができると解されており、本件普通火災保険に対する質権の被担保債権は、現在負担し、又は、将来負担する一切の債務であるから、原告Bの質権は有効である。

5  本件火災によって原告会社、訴外旺臣建設及び訴外鯉沼が被った損害(判断の必要がなかった争点)

(原告らの主張)

(一) 原告会社は、本件火災により、別紙罹災動産一覧表(化粧品)記載の化粧品を焼失し、四二〇二万九一二〇円の損害、同一覧表(什器1)記載の什器を焼失し、一〇二万二三〇〇円の損害をそれぞれ被った。

(二) 訴外旺臣建設は、本件建物を焼失し、一億円を上回る損害を、訴外鯉沼は、別紙罹災動産一覧表(什器2)記載の什器備品を焼失し、二四八八万四六五〇円の損害を被った。

(被告らの主張)

(一) 原告会社と訴外磯野との化粧品の取引は、委託販売契約であるというべきであるから、原告会社は化粧品について所有権を取得しておらず、別紙罹災動産一覧表記載の化粧品については、原告会社において損害が発生していない。さらに、右化粧品は事実上販路を失ったデッドストックともいうべき商品であって、損害と評価できない。

(二) 本件建物の焼失による損害額は三九三五万三〇〇〇円であり、取り片付け費用は、三九三万五三〇〇円にすぎない。

(三) 被告富士火災と訴外鯉沼との間の本件店舗総合保険契約の目的物の所有者は訴外鯉沼であるところ、別紙罹災動産一覧表(什器2)記載の什器備品には、訴外旺臣及び訴外旺臣建設の所有物も含まれており、これらは保険の対象になっていない。また、別紙罹災動産一覧表(什器2)記載の什器備品の損害額は、一九八万七〇〇〇円である。

第三争点に対する判断

一  本件建物の使用状況は一階に居酒屋「京國」が入居し、二階は訴外旺臣の事務所、三階は原告会社と訴外池の事務所として使用されていた事実及び平成九年二月一九日午前一時三二分ころ、本件建物において、放火による火災が発生し、原告会社事務所内に保管していた商品、什器、備品などが焼失し、また、本件建物は全損状態となり、本件建物内の什器備品も焼失した事実は、当事者間に争いがなく、右事実に加えて、証拠(乙一、三)によれば、本件火災は、何者かが本件建物の二階部分及び三階部分の床や椅子に大量の灯油を撒き、三階部分の原告会社が占有する事務所の書籍ロッカー前の床に紙を置き、これに火をつけて放火したことにより発生したものであることが認められる。

二  被告らは、本件火災は、原告Bの放火によって発生したものであると主張するので、この点について判断する。

1  まず、本件建物の侵入状況等からして、次の事実が認められる。

(一) 証拠(甲三一、乙一、三、六、一二、丙四、証人鯉沼)によれば、本件建物には、本件火災後、外部からの不審な侵入をうかがわせるドアや窓ガラスの損傷はなかったこと、本件建物の出入口としては、正面に設置されている第一ドア、第一ドアの横に設置されている第二ドア、居酒屋への出入口及び本件建物脇に設置されている居酒屋の勝手口があったが、第一ドアは、内部にシャッターが降ろされ、施錠されており、居酒屋の勝手口ドアは内部に流し台が設置されて出入りができない状態にされており、また、居酒屋の出入口を入り、居酒屋の店内から本件建物の二階以上に行くことができない状態であったこと、一方、第二ドアは、本件火災当日、訴外鯉沼が午後八時ころ施錠して退出したが、赤羽消防署の消防士が到着したときは、四五度に開いた状態で放置されていたことが認められるのであり、右事実によれば、放火の犯人は、第二ドアから本件建物へ侵入したことが認められる。

そして、証拠(乙一、五、丙四、五の2)によれば、第二ドアの鍵を所持していたのは、原告B、訴外鯉沼、訴外池並びに訴外鯉沼に従前金員を貸し付け、本件建物の信託譲渡を受けていた訴外李であった(ただし、信託譲渡を受けた登記簿上の名義人は訴外木下勇人である。)ことが認められる。

(二) 次に、証拠(乙一、三、一二、丙四)によれば、本件建物二階に侵入するには、二階出入口のドアと二階事務所とベランダの間に設置されていた二つの窓から入る方法があること、二階出入口ドアと右ドアから離れて設置されていた窓は本件火災前に施錠されており、右出入口ドアの隣に設置されていた窓にはクーラーのためのパイプが取り付けてあったため、鍵がかけられていなかったこと、二階出入口ドアは本件火災後開錠された状態であったこと、また右ドアにはノブの下に切り刻んだ穴が開けられていたことが認められる。

そして、証拠(乙一、一二、丙四)によれば、二階出入口ドアの鍵は、訴外鯉沼が所持していたことが認められる。

(三) 証拠(乙一、三、六、一二、丙四)によれば、階段部分から本件建物三階廊下に入る部分に設置されているドア及び原告会社事務所の出入口ドアのシリンダー錠は、本件火災前に施錠されていたところ、本件火災後開錠された状態で焼け残っていたこと、三階の階段部分から本件建物三階廊下に入る部分に設置されているドアの鍵を所有している者は原告B、訴外鯉沼及び訴外池であり、原告会社事務所の鍵を所有しているのは、原告Bと同原告の離婚した妻で現在原告会社の従業員である訴外古屋邦子及び訴外鯉沼であることが認められる。

(四) (一)ないし(三)によって認められる本件建物の放火犯が、本件建物へ侵入したと認められる第二ドアは損傷がない状態で開け放たれていたこと、本件建物三階に設置されていたドア及び原告事務所の出入口ドアは開錠された状態で焼け残っていた事実によれば、本件建物の放火犯は、第二ドア及び本件建物三階部分に設置されていたドア並びに原告事務所の出入口ドアを開錠して、本件建物及び原告事務所に入ったことが推認されるのであり、右各ドアの鍵を所持していた原告B及び訴外鯉沼が放火犯である可能性が認められる。

そして、本件建物二階出入口ドアにはノブの下に切り刻んだ穴が開けられていたことが認められ、本件全証拠によるも、いまだ右穴が偽装工作のために開けられたものであると認めることができないことからすると、本件建物二階部分への侵入は、右ドアの鍵を所持しない者によって行われた可能性が高く、そうすると、本件放火は、訴外鯉沼よりも原告Bによる犯行であるとの可能性が高いといわなければならない。

(五) 原告らは、本件建物の従前の入居者の中に、本件建物の第二ドア及び本件建物三階部分に設置されていたドア並びに原告事務所の出入口ドアの鍵を所持している者がおり、それらの者が放火犯の可能性があるし、本件建物の施錠前に浮浪者等が入り込み本件建物のどこかに潜んでいて放火をした可能性があるし、訴外鯉沼が第二ドアの施錠を失念し、第三者が入り込み放火をした可能性もあると主張する。

前記(一)の事実及び証拠(丙四)によれば、訴外李において、本件建物の第二ドア及び本件三階部分に設置されていたドア並びに原告事務所の出入口ドアの鍵を所持していたことが認められないわけではないが、本件全証拠によるも、訴外李が本件建物を放火する動機が認められず、また、浮浪者等が入り込んでいて放火をしたとの主張を認める余地はないし、本件建物の第二ドア及び本件三階部分に設置されていたドア並びに原告事務所の出入口ドアの施錠の状況や本件建物二階出入口ドアが金切り挟み等の道具によって切り刻ざまれている状況からして第三者の犯行の可能性も考え難く、原告らの主張は採用できない。

(六) 本件全証拠によるも、原告Bには、本件火災発生時におけるアリバイは存在しない。原告Bの姉である訴外白井裕子は、本件火災が発生した夜の零時ころに自宅で原告Bが歯を磨いていたことを目撃したこと、自宅の玄関は鉄製の重いスライドドアで開閉の際は音がするので、原告Bが深夜に出かけると、物音に敏感な母親が気づくはずであると陳述する(甲五五)が、採用できない。

(七) そうすると、放火犯の本件建物への進入経路、本件建物の各ドアの鍵の施錠の状況と右各ドアの鍵の所持者、本件建物二階出入口ドアの状況に加えて、前記一に認定した本件火災の着火点が原告事務所であることなどの外形的事実からすると、原告Bが、本件火災の放火犯として最も疑わしい人物であり、放火犯である可能性が高いと認められる。

2  そこで、次に、原告Bにおいて、本件建物を放火する動機があったか否かについて検討する。

(一)(1)  前記第二、一7によれば、原告Bは、平成八年一〇月二六日に主債務者を訴外旺臣、連帯保証人を訴外旺臣建設及び訴外鯉沼として締結した準消費貸借契約に基づき、元金一億一三〇二万八〇〇〇円及び利息並びに遅延損害金の債権を有し、さらには、同年一一月二〇日に主債務者を訴外旺臣建設、連帯保証人を訴外旺臣及び訴外鯉沼として締結した消費貸借契約に基づき元金五〇〇万円並びに利息及び遅延損害金の債権を有し、平成九年二月一九日当時、訴外旺臣及び訴外旺臣建設並びにその連帯保証人である訴外鯉沼に対し、貸金等合計一億二三五二万九四四八円の債権を有していたことが認められる。

(2)  そして、証拠(甲七、八、三一、三二、三四、三五ないし三七の各1、2、三九ないし四一、四四ないし四七、乙一、五、七、一二、一八、二五ないし三五、丙四、証人鯉沼、原告B)によれば、平成八年一〇月二六日に締結した準消費貸借契約に基づく債権は、原告Bが訴外旺臣に対し、平成五年二月二五日、訴外大島正興に対する融資のために四〇〇〇万円を貸し渡し、平成六年五月二五日、訴外鯉沼の紹介により訴外旺臣の保証の下株式会社熊谷卜チケンに対し三〇〇〇万円を貸し渡し、同年七月ころ訴外旺臣に対し手形を担保に五〇〇万円を貸し渡した債権について準消費貸借契約を締結したものであり、平成八年一一月二〇日に締結した消費貸借契約に基づく債権は、訴外李の訴外鯉沼に対する五〇〇万円の債務を代位弁済したことにより生じたものであること、前者の債権については、訴外旺臣と訴外大島らとの間で訴訟になり、訴外大島らが訴外旺臣に対し三五〇万円を支払う和解が成立したことにより、訴外旺臣から原告Bが平成八年一〇月二九日三二四万八八六〇円の弁済を受けるなどし、さらには、原告Bと株式会社熊谷トチケンとの訴訟において、平成一〇年九月一四日に成立した和解により株式会社熊谷トチケンが原告に対し和解金二三〇〇万円を支払うことになったが、いまだ右和解金は支払われておらず、原告Bの訴外旺臣らに対する前記債権は、ほとんど回収できずに利息及び遅延損害金も増加していき、平成八年一〇月二六日の準消費貸借契約の締結に至ったこと、右状況の中で、原告Bは、さらに訴外李の訴外鯉沼に対する五〇〇万円の債務を代位弁済して訴外鯉沼に対する債権を取得するに至ったことが認められる。

(3)  ところで、証拠(乙一、三八、丙四、五の1、2)によれば、訴外旺臣、訴外旺臣建設及び訴外鯉沼の財産は、訴外旺臣建設が所有する本件建物とその敷地が主たる財産であるが、本件建物及びその敷地には、債権額合計五億円の抵当権及び極度額合計一億二〇〇〇万円の根抵当権が設定されており、平成五年一二月二七日には競売開始による差押登記、平成九年三月三日には税金の滞納による差押登記がされ、右競売手続における最低売却価額は八一七五万円と定められたにすぎなかったことが認められ、右各事実によれば、原告Bにおいて、本件建物及びその敷地から前記各債権を回収できる見込みは全くなかったことが認められる。

(二)(1)  次に、訴外旺臣建設は、平成八年五月一〇日、被告富士火災との間で、保険金額一億円とする本件普通火災保険契約を締結し、同月三一日、原告Bは、同被告から本件普通火災保険に対する質権設定承認裏書を受け、さらに、訴外鯉沼は、同年七月二九日、同被告との間で、保険金額三〇〇〇万円とする本件店舗総合保険契約を締結し、同年八月二〇日、原告Bは、同被告から本件店舗総合保険に対する質権設定承認裏書を受けたことは、当事者間に争いがなく、右事実によれば、右各保険契約の保険金額の合計は、一億三〇〇〇万円となり、原告Bの訴外旺臣らに対する債権の全額回収を可能にするものであったことが認められる。

(2)  証拠(甲七、四〇)によれば、原告Bと被告旺臣との間の平成八年四月三〇日付け金銭借用証書には、連帯保証人として訴外旺臣建設が入っておらず、原告Bが訴外旺臣建設の本件火災保険に対し質権設定承認裏書を受けても、右時点では訴外旺臣建設に対する債権を有していなかったため、質権設定承認裏書によって債権の回収を図ることができなかったが、本件普通火災保険契約締結後の同年一〇月二六日付け金銭借用証書において訴外旺臣建設を連帯保証人として加えたことが認められる。

(3)  また、前記(1) (2) の各事実及び証拠(甲五五、乙一八、三八、六七)によれば、本件建物は、平成八年五月一日、同年三月二八日信託を原因として訴外木下勇人に所有権移転登記が行われていたが、右登記は、同年一一月二〇日に錯誤により抹消されたこと、原告Bは訴外鯉沼の訴外李に対する五〇〇万円の債務を代位弁済したことにより、右登記が抹消されたものであることが認められる。

ところで、本件建物について、訴外木下に対する所有権移転登記が行われている下では、訴外旺臣建設が本件普通火災保険契約を締結し、原告Bが本件普通火災保険に対し質権設定承認裏書を受けても、原告Bにおいて火災保険金から債権の回収を図ることができず、これを可能にするために、原告Bは、前記(1) (2) のとおり、訴外鯉沼に対しては多額の債権を有し、これを回収できないでいたのに、さらに、訴外鯉沼の訴外李に対する債務を代位弁済して、右登記を抹消したものと認められる。

(4)  証拠(甲三一、三二、乙一、一二、丙四)によれば、訴外旺臣建設及び同鯉沼は、原告Bの勧めによって、保険代理店であった原告Bを通して本件普通火災保険契約及び本件店舗総合保険契約を締結し、保険料の大半を、原告Bが負担していたことが認められる。

原告Bは、訴外鯉沼の保険料の支払は多少遅れることがあったが、すべて清算しており、原告Bにおいて保険料を負担したことはないと供述し、訴外鯉沼から受領した保険料の証拠として甲四八(手帳)を提出するが、甲四八の記載は、一年間の手帳であるのに訴外鯉沼からの返済部分以外にはほとんど記載がないものであって、その不自然な内容からして信用できないし、丙四における訴外鯉沼の陳述内容及び証人鯉沼はその証言においても原告Bに対し借入金の支払をしたのか、保険料を支払ったのか明確な証言をしていないことに照らして、原告Bの前記供述は採用できない。

(三) (一)、(二)の各事実によれば、原告Bは、本件各保険契約に対する質権者としての立場から、訴外旺臣及び同鯉沼らに対する債権の回収を図ろうとしていたことが認められるのであり、原告Bには、本件建物を放火することに十分な動機があると認められる。

一方、訴外鯉沼においては、本件各保険契約による保険金は、原告Bによってすべて回収されることを考えると、原告Bほど本件建物に放火することにおいて強い動機があるとは考えられない。

3  以上に加えて、原告会社及び原告Bには、次のような事情も認められる。

(一) 原告Bが代表者を務める原告会社においても、平成九年一月二四日、被告東京海上との間で、保険金額四四〇〇万円とする店舗総合保険契約を締結したことは、当事者間に争いがなく、本件放火は、右契約締結から一箇月も立たない同年二月一九日に発生したものである。

加えて、原告会社は、右保険の目的である化粧品が本件火災により焼失し四二〇二万九一二〇円相当の損害を受けたとして、保険金の請求を行っているが、原告会社の化粧品販売については次のような不自然な点が存在し、原告会社において本件火災により焼失したとする化粧品を通常の取引により購入したものと認めることができない。

(1)  証拠(乙六、一〇、四七、丙四)によれば、原告会社は、訴外磯野が経営する訴外美陽化学株式会社(以下「訴外美陽化学」という。)の販売部門である訴外レーシモントウキョウから二四六六点の化粧品(原告会社主張によればその価格は四二〇二万九一二〇円相当である。)を買い受け、平成八年一二月一九日、二六日、二八日に原告会社事務所に搬入したことが認められる。

そして、原告会社は、右化粧品を台湾への販売計画のために購入したものであるが、これが実現しなかったために、国内への販売計画に切り替えて、これが具体化しないうちに本件火災が発生したと主張する。

ア しかし、台湾への化粧品の輸出計画に関して、その計画を立てた訴外杉浦勝利(以下「訴外杉浦」という。)は、化粧品販売は専門外であったため、原告Bを誘って共同で化粧品を台湾に輸出する事業を行うことにしたこと、平成八年一〇月から一一月ころ訴外磯野及び台湾の化粧品販売業者と台湾における化粧品の販売について打ち合わせを行い、化粧品の数量や卸価格等の販売条件は決定していなかったが、訴外杉浦が訴外美陽化学と契約をして六〇〇〇万円相当の化粧品を購入して原告会社事務所に搬入し、原告Bから二〇〇万円を借り受けて手付金を支払ったこと、平成九年一月一五日から同月一七日まで台湾に行き、台湾の販売会社に督促をしたところ、独占販売契約書を交付されたので、これを磯野に記入を依頼し、同年二月一八日右契約書とサンプルを持参したところ、瓶の形状、色、商品名の変更を要求され、正式な販路が決まってから契約を締結すると通告されたと陳述している(乙一三)のに対し、原告Bは、訴外杉浦を共同事業者として化粧品の台湾への輸出を考えたが、訴外杉浦に対し右輸出事業に対しアドバイスや事実の確認を何ら行っていないこと、平成八年一二月一九日に化粧品の代金として二〇〇万円を出したが、その後杉浦が所在不明となって連絡が付かなくなり、台湾における化粧品の販売計画が頓挫したため、訴外杉浦に何の相談もなく、訴外磯野と化粧品の国内販売に方針を切り替えたこと、原告Bには化粧品販売の経験はなく、化粧品の原価と比較して仕切り価格がいくらが妥当であるかをも判断できないことを供述ないし陳述(甲四七)し、訴外磯野においても、訴外杉浦から化粧品の台湾への輸出を行うので、定価で二億円位の商品を作ってくれと言われ、原告会社へ化粧品を納入したが、訴外杉浦と連絡がとれず、台湾への輸出話も当てにならなかったので、平成八年一二月二六日、原告Bと相談して国内販売に切り替えることにしたと陳述している(乙一〇)。

右のとおり、化粧品の台湾への輸出に関する訴外杉浦の陳述内容と原告Bの供述及び訴外磯野の陳述は、大幅に食い違っているのみならず、原告らから化粧品の台湾への輸出についての具体的販売計画を明らかにする客観的証拠の提出はない。また、原告Bは、化粧品販売の経験はなく、化粧品の原価と比較して仕切り価格がいくらが妥当であるかをも判断できない者であり、訴外杉浦を共同事業者としているのに、訴外杉浦に何の相談もなく、化粧品の台湾への輸出を国内販売に切り替える決定をしたというのも不自然である。

右事実によれば、原告会社が化粧品を台湾へ輸出する計画を有していたこと自体疑わしいといわなければならないし、訴外杉浦も原告Bも化粧品の販売に関して経験がなく、台湾における具体的な販売計画も明らかではない段階で、大量の化粧品を購入したということもはなはだ不自然であり、通常の取引としては考えられないといわなければならない。

イ 加えて、国内販売についても、原告Bは、平成九年一月一二日に訴外磯野による商品説明会を実施し、本件火災当日、原告B、訴外磯野及び訴外竹村とエステサロンに代理店委託契約の交渉に行く予定であったと供述ないし陳述する(甲四七)が、一方、原告Bは、交渉に行くべきエステサロンの名前を聞いていないと陳述していた(乙六七)し、訴外磯野も、原告Bから具体的な販売方法や販売先は一切聞いていないこと、訴外竹村については面識がないことを陳述している(乙一〇)のであり、原告らから化粧品の国内の販売計画を明らかにする客観的証拠の提出もないから、台湾への輸出と同様に、化粧品の国内販売についても具体的計画があったのかはなはだ疑わしいといわなければならない。

以上によれば、原告会社における化粧品の台湾への輸出計画や国内の販売計画自体疑わしく、また、これらが具体的に明らかではないのに、原告会社において大量の化粧品を購入していることは通常の取引として不自然というほかない。

(2)  原告会社が化粧品を購入したとする訴外レーシモントウキョウ及びその関連会社である訴外美陽化学について、さらに以下の事実が認められ、右事実は、原告会社と訴外レーシモントウキョウとの間の取引の不自然さを表すものであって、原告会社と訴外レーシモントウキョウとの間に正常な取引が行われたとは考え難い。

ア 証拠(乙四八、五〇、丙四)によれば、原告会社が化粧品を購入した訴外レーシモントウキョウは、同じく訴外磯野が経営する訴外美陽化学の販売会社として昭和五四年八月に設立された会社であるが、訴外美陽化学も訴外レーシモントウキョウも平成八年二月に二度不渡りを出して銀行取引が停止となった会社であることが認められる。

そして、証拠(甲三二、乙二、一〇、四七、六七)によれば、化粧品の販売経験もなく、また、販売についての具体的計画も明らかではない原告会社が訴外レーシモントウキョウから三回にわたって購入した化粧品の量は、訴外美陽化学と訴外レーシモントウキョウの年間売上げ高の約七〇パーセントに当たる量であり、しかも、訴外レーシモントウキョウの他の販売先に対する化粧品の仕切値は、定価の七ないし三〇パーセントであるにもかかわらず、原告会社への販売は定価の七〇パーセントという高額の仕切値で行っていることが認められる。

イ しかも、証拠(乙一〇、五八、五九、六三)によれば、原告会社が訴外レーシモントウキョウから購入した化粧品の中には、ほとんど販売実績がない商品や多量の不良在庫になっている商品が含まれている一方、売れ筋であるにもかかわらず、全く購入していない商品もあるなど真に化粧品の販売を検討しているのであれば全く不合理な購入方法をとっていること、訴外美陽化学が製造した化粧品には防腐材等の添加物が入っておらず、保存が利かない商品であるのに、具体的販売計画が明らかでないままに大量の化粧品を購入していることが認められる。

ウ 証拠(甲五九、六〇の1、2、乙一、一一、六七)によれば、訴外レーシモントウキョウにおいても、訴外美陽化学においても、本件訴訟前には原告会社への化粧品の販売に関して一切記帳していなかったこと、本件訴訟後において、訴外レーシモントウキョウにおいて、右売上げを記帳するに至ったが、平成八年九月二一日から平成九年九月二〇日までの第一八期決算書に四〇〇万円の売上げを、平成九年九月二一日から平成一〇年九月二〇日までの第一九期決算書に一〇万円の売上げを記帳したにとどまっていることが認められる。

また、証拠(甲一三、一四の各1ないし4、一五の1ないし3、五九、六〇の1、2、乙二、六一、丙四)によれば、化粧品の販売に関する請求書は、すべて訴外レーシモントウキョウから発行されているのに、原告会社が支払ったとされる代金についての領収書は、三〇〇万円分が訴外レーシモントウキョウから発行され、一〇〇万円分が訴外美陽化学から発行されていること、しかし、販売代金四〇〇万円については訴外磯野が取得し、訴外美陽化学と訴外レーシモントウキョウに対する訴外磯野の貸付金と相殺したとするが、右取扱いは、訴外美陽化学及び訴外レーシモントウキョウの帳簿処理とも一致していないことが認められる。

(3)  原告Bは、訴外レーシモントウキョウからの化粧品の購入代金四〇〇万円について、訴外磯野に対し、平成八年一二月一九日に二〇〇万円、同月二七日に一〇〇万円、平成九年一月二八日に五〇万円、同年二月二六日に五〇万円の分割で支払ったと主張しているが、以下のとおり、購入代金の支払場所に関する原告Bと訴外磯野の陳述が異なっているし、原告Bの四〇〇万円の支払方法についての陳述及び主張は何度も変遷しており、原告Bから訴外磯野に対し、真実購入代金の支払が行われたかについても疑問が残る。

ア 証拠(乙一、六、一〇、六七)によれば、原告Bと訴外磯野は、右販売代金の授受が行われた場所について異なった陳述をしていたことが認められる。

イ 証拠(乙一、五、六、八)及び本件訴訟記録によれば、原告Bは、化粧品の購入代金の支払について、当初銀行口座からすべて個人の金を引き出して支払ったと説明していたが、その後、被告東京海上から銀行通帳の提出を求められて、三五〇万円は自宅のロッカーに保管していた金員を支払い、五〇万円は富士銀行のカードローンで借りて支払ったと供述を変更し、さらに、本件訴訟では、当初、平成八年一二月一九日に富士銀行から引き出した二〇〇万円を同日全額支払い、同月二四日に国民銀行から引き出した一一七万三五六二円の中から同月二七日に一〇〇万円を支払い、平成九年一月二八日に富士銀行のカードローンで借りた五〇万円を支払い、同年二月二四日に国民銀行から引き出した一二〇万七一九〇円の中から同月二六日に五〇万円を支払ったと主張していたが、その後、平成八年一二月一九日に富士銀行大泉支店原告B名義の口座から引き出した二〇〇万円を同日全額支払い、同月二六日に国民銀行豊島園支店原告会社名義の口座から引き出した二〇万八四五〇円と同月二七日同支店原告B名義の口座から引き出した六〇万円に手持ちの現金一九万一五五〇円を加えた一〇〇万円を支払い、平成九年一月二八日に富士銀行のカードローンで借りた五〇万円を支払い、同年二月一〇日に前記富士銀行原告B名義の口座から引き出した二八万円と同月二六日に国民銀行原告B名義の口座から引き出した二〇万に手持ちの現金二万円を加えて同月二六日に五〇万円を支払ったと主張するに至ったことが認められる。

(二) 証拠(甲五三、乙一、一六、一七、一九、二〇、二一)によれば、原告Bは、平成六年まで訴外株式会社エスケー企画を経営し、損害保険代理業と飲食店業を営み、役員報酬として平成六年には五四〇万円の収入を得ていたが、株式会社エスケー企画の経営は順調とはいえず、同年九月に飲食店業を閉店した上で、右エスケー企画を訴外竹村に無償で譲渡し(甲三二には四〇〇万円で譲渡した旨の記載があるが、甲五三に照らして採用できない。)、その後、原告Bは、個人で損害保険代理業を営んでいたこと、原告Bの所得金額は、平成七年度において四一七万一一八七円、平成八年度において三三一万九八五九円と収入の減少によりその経済的状況は厳しかったことが認められる。

(三) 原告Bは、本件建物の価格について、まず、昭和三八年の本件建物の新築費用を七九・五坪で坪単価一二五万円として一億円と見積もり、減価償却率を年一パーセントと見て、三三年分三三パーセントの減価償却を行った結果六七〇〇万円と算出し、次に、訴外鯉沼が昭和六二年に三六〇〇万円を費やして本件建物を一九坪増築したので、右増築部分について九年分九パーセントの減価償却を行って三二〇〇万円ないし三三〇〇万円と算出し、本件建物の価格を合計一億円と見積もってこれを保険価額としたと供述ないし陳述する(甲四七)。

証拠(甲三の1、丙三、五の2、六の2、八、証人西井)によれば、保険に付す建物の保険価額を算定する場合には、一般的に保険代理店において簡易評価基準を使用して建物の価額を算出すること、右簡易評価基準によると、本件建物は、鉄骨作りで、ALCスラブ防水仕上げ、モルタル塗りの建物であり、本件火災保険には基礎工事を含まないとされているから、一平方メートル当たりの価格は二一万円から二三万円、本件建物の延べ面積が三二三・九八平方メートル、非住宅使用の鉄骨造りの建物の減価償却の割合である年一・五パーセントによる減価償却率は五〇パーセントとなり、その価額は、三七二〇万円程度と評価されること、建物の改装については建物の強度とは無関係であるため保険価額を決める上で考慮しない取扱いであることが認められる。

ところで、証拠(甲三二、丙四、六の2)によれば、原告Bは、長年保険代理店を営んでおり、建物の保険価額の簡易評価基準については理解していることが認められる。

それにもかかわらず、原告Bが評価した本件建物の価額は、簡易評価基準によって評価した価額とかなりの乖離があり、増改築部分の評価の違いを考慮に入れても、原告Bは、本件建物の保険価額をかなり不相当に高額に見積もっていたことが認められる。

三  前記二1に検討したとおり、原告Bには、本件火災発生時におけるアリバイは存在せず、本件放火場所、放火犯の本件建物への進入経路、本件建物の各ドアの鍵の施錠の状況、右各ドアの鍵の所持者、本件建物二階出入口ドアの状況などの外形的事実からすると、原告Bが、本件火災の放火犯である可能性が高いと認められる。前記二2に検討したとおり、原告Bにおいて、訴外鯉沼らに対する一億円を超える債権を本件建物及びその敷地から回収できる見込みは全くなく、訴外鯉沼らから弁済を受ける状況にもなかったことから、原告Bは、本件各保険契約に対する質権者としての立場から、訴外旺臣及び同鯉沼らに対する債権の回収を図ろうとしていたことが認められるのであり、原告Bには、本件建物を放火することについての十分な動機があると認められる。さらに、前記二3のとおり、原告Bが経営する原告会社においても、本件建物内に存置していた化粧品等について店舗総合保険契約を締結しており、右契約締結後一箇月も立たないうちに本件火災が発生していること、原告会社の化粧品の購入は、通常の取引に基づくものとは考えられない不自然なものであることなどの各事情は、原告Bが放火の動機を有していたことを十分に裏付けるにとどまらず、本件火災の放火犯であることを推認させるものである。

以上に検討した事情を総合考慮すると、原告Bは、本件火災の放火犯であると認められるといわなければならず、そうすると、被告らは、店舗総合保険普通約款第一章二条及び火災保険普通保険約款第一章二条により本件各保険の支払を免責される。

なお、原告らが本件訴訟において提出する甲五〇ないし五八の各陳述書の記載は、信用することができない部分も多く、前記認定を覆すものとはなり得ない。

四  以上により、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 前田順司)

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